純文学ショートショート集?『犬儒の本』のご紹介
同人誌創刊前に三つの文芸評論などを書いていて、旧帝大文学部あたり等かな、いろいろな方がアクセスしてくださっているようなのですが、2000年から2005年頃まで、6年でショートショートを9作品だけ書きました。
あまり自分が創作をするとは思っていなかったのですが、その後中編小説も三つ書きました。
一応当誌は純文学を標榜していてシリアスな作品が多いのですが、僕らが生活の実感を表現するだけで、どうもシリアスになってしまうようです。
ええと、純文学?ショートショート集として『犬儒の本』(2006)にまとめました。
すべて千文字以内の作品です。これはぜひ何かの片手間にでもお読みいただければ。
そんなアマチュア作品読むのなら、古本でも読んだ方がいいとかお考えの方も多いかもしれませんが、どっこい、当事者の方には大変切実な作品群だと思いますよ。
http://homepage1.nifty.com/kenju/
犬儒のHP~本格派「当事者」雑誌
よろしくお願いします。
では、『犬儒の本』から一篇だけご紹介します。地の文が少ないので、多様な解釈もあるようです。
ぴんぽーん。
青年がアパートのドアを開けると美少女が立っていた。
「突然恐れ入りますが、祈らせてください」
「え?」
「あなたの為に三分間ほど祈らせていただきたいのですが」
「え? ……僕は仏像じゃないですよ??」
「私が観音様なんですよ」
「あなたは観音様なんですか。そんなこともあるんですかね??」
「たまにはそんなことも起こるんですよ」
「はあ。そうなんですか。……あの、お布施とかいるんですか?」
「いいえ、いつも霞ですとか食べていますのでいりません」
「そうですか。ダイエットとかですかね。……あの、玄関先じゃなんですから、お入りになってお茶でもいかがですか?」
「おじゃましてもいいのですが、まずは祈らせてください」
「そうですか。じゃあ、お願いしますか?」
「……」
「……?」
「……??」
「あの、観音様ですか、なにか分かったことですとかありますか?」
「いえ、特に何かを理解するためにやっているわけではないのですが」
「そんなものですか」
「ただ、あなたは良い方だと思いました。でも、悪い人になることも大事でしょう」
「そうですか?? あの、お茶はいかがですか」
「いえ、やはりお取り込み中でしょうからおいとまします」
「そうですか。ご苦労様でした」
青年は机の前に戻ってしばらくぼおっとしていた。そして書きかけだった遺書を破り捨てた。