純文学ショートショート?「やりたかった結婚式」(犬儒)
いつも長いものを紹介しておりまして、消化不良になっておられるかもしれませんが、すいません。
また当誌の『犬儒の本』より、短いの紹介します。落ちのある超短編小説のことですね。「ショートショート」。昔は星新一さんが有名でしたが、最近は阿刀田高さんあたりでしょうか。
なかなか計算しても落ちないんですが、これはどうでしょうか。前倒しで、最後から6行前くらいに落ちがあるかなー。落ちてましたら、ぜひバナークリックお願いします。やはり地の文が少ないので、多様な解釈はあるようです。
十二ヶ滝市役所の市民課の窓口の女性は退屈でちょっとあくびをかみ殺した。
男女の二人連れがこちらの方に来るようだった。何の人だろう。
中年の眼鏡をかけた男性とやや若い女性。二人ともスーツを着ている。
「婚姻届をお願いしたいのですが」男が言った。
「あ、はい」
「あの、その前に、突然恐れ入りますが、非常に申し訳ないのですが、この場をお借りしましてちょっと結婚式をやらせていただきたいのですが。それほどお邪魔にはならないと思うのですが」
「え、、、確かそういう形式の結婚式もありましたが、当方の事前の許可が必要だったと思うのですが」
「いえ、まったく皆さんのご迷惑にはならないかと思います。30秒もしないで済みます。言葉は悪いのですが、黙認していただけませんか」
「はあ……」
二人は窓口から少し離れてから握手した。そして窓口に戻ってきた。
「この婚姻届をお願いします」
彼女は書類をチェックしたが、整っていた。
「受理いたします、……あの、」
「はい」
「あの、おめでとうございます」
「ありがとうございます」不釣合いなほど若い新婦が言った。
「ありがとうございます。こういう結婚式をやりたかったんです」分厚い眼鏡をかけた新郎が言った。
「大変おめでとうございます」
夫婦は飄々として立ち去っていった。
彼女はほとんどあっけにとられていた。
そして、しばらくしてから途方にくれた。
↓どうでした??