純文学ショートショート「盗人に取り残されし窓の月」
3月にブログ始めたんでしたか、なかなか『本格派「当事者」雑誌』からご紹介できるものが減ってきましたが、一応純文学サイトのコンテンツのブログなんで、いくらかご紹介続けますか。
オチが前倒しになっているけど、受けるかなあ?
の、
『犬儒の本』より、
老いた僧は、庵で、寝る前に鉢から水を一飲みした。
朝になったらまた一飲みする。井戸が少し遠いので、残った水で朝、顔も洗う。
庵の隅に置いておいた布団をひき、菜種油の灯を吹き消すと床についた。
(間)
盗人はこの土地のことはあまり知らなかった。さほど得物に期待したわけではなかったが、少しは金目のものがあるかと思い、丑三つ時、庵をうかがってみた。普請が悪く、扉に隙間さえあった。少しきしんだが扉が開いた。
窓からの月明かりで、庵の中の様子がある程度うかがえた。盗人はかなりがっかりした。調度品のようなものはほとんどなかった。粗末な鉢は目に入ったが、他、硯なども、到底高値で売れそうなものではなかった。
その時、寝ていた僧が、いびきをかきながら、寝相悪く、布団から板の間に転がった。
「風邪ひくなよ。」……少し考えたが、盗人は布団を抱えて抜き足差し足庵を出た。やがて小走りになった。
(間)
僧は狸寝入りから起きると、窓から月を観た。
「貧しき者にはあんな布団でも私にとってより価値のある物だったろう。」僧は思った。
明日も布団なしというわけにもいかないだろうが、僧はとりあえず座して窓の月を眺めた。しばらくしたら夜も明けるだろう。
(終)
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