犬儒のブログ

当事者のアマチュア文芸雑誌の編集顧問を務めています。『ノルウェイの森』の直子と同病の単純型統合失調症です。

原爆をモチーフにした福永武彦の『死の島』って小説あるんですけど、7回読みました。主人公は編集者です。

「オ水。オ水ヲ。」
 モシ言葉トイウモノガスベテ消滅シタトシテモ(コレホドノ恐ロシイ不思議ナコトガ起ッタ以上、言葉ダッテ消滅シナイコトガアルダロウカ)、シカシ最後ニ人間ノアラユル希望ガ唯ヒトツコノ言葉ニダケハ籠メラレテイルト思ウホカハナイ程ニ、苦シゲニ呟カレタニモ拘ラズ彼女ハタダ頷キ、眼ヲ起シテ周囲ノ風景ヲ見、ソノ赤熱シタ風景ノ中ニ、物タチノ充満シタ風景ノ中ニ、女ノ子ノ訴エテイルモノダケガ欠ケテイルコトヲ知ッテイタ。最モ必要デアルソノモノヲ彼女ハ手ニ入レルコトガ出来ナイノヲ知ッテイタ。

(『死の島』福永武彦、新潮社、1971、より)

 

 原爆投下後の広島の非人間的な惨状を表現していると思うのですが、昭和29年(1954年)の一日を舞台に、回想などもまじえて物語は進んでいきます。ちなみにこれはジェームス・ジョイスの『ユリシーズ』の舞台の1904年から50年後にあたります。まあ、影響は受けたでしょう。

 以前一回記事にしたことがあるんですが、新潮文庫のカバーからあらすじをご紹介しますと、

 

 

冬の朝、薄気味の悪い夢からさめた相馬鼎は創作ノートを繰りながら机の上に掛けられた絵を眺める。彼は300日前に展覧会場でみたその「島」という作品にひきつけられ、作者の萌木素子を訪ねる。暗い蔭をたたえた被爆者の彼女は、あどけなく美しい相見綾子と二人で住んでいる。相馬が勤務先の出版社について間もなく、広島の病院から二人が心中したという報せをうける……。

相馬を乗せた東海道線急行列車は、一路広島へひた走る。素子と綾子に同時に感じた愛情が相馬の回想の中をめぐり、自分の創作に登場する二人の女性とイメージが重なっていく。翌朝早く広島に到着した相馬の朦朧とした意識の内に再び夢の風景が浮かぶ……。24時間の時の経過とともに真実の愛を求めて彷徨する魂の行方を交響的手法で描きだした日本文学大賞受賞の長編小説。

 

 

というような長編です。

 福永は48歳の時に脱稿して、その後小説の筆を取ることはありませんでした。学習院大学の仏文科の教授は続けました。

 そうですね。国旗国歌法とかもできたんですが、敗戦国が尊厳を取り戻したとも言えますが、帝国主義の象徴みたいで、アジア諸国に申し訳ないような気もします。

 しかし変われば変わるもんですね。自らの国に「帝国」とか名前付けて喜んでた時代があるんですよねえ。戦後は180度くらい変わりましたね。戦前は「人一人の命は地球より重い」なんて言ってなかったと思います。

 東京大学のOBの若者によって結成された、「マチネ・ポエティック」って、日本語による定形押韻詩の活動あるんですが、まあ、福永、中村真一郎加藤周一等がメンバーでした。加藤さんは比較的最近までご存命で「九条の会」等の活動でも有名です。

 僕は「犬儒のHP」の巻頭では、日本国憲法前文の一部を巻頭言にしています。

 

 

日本国民は、恒久の平和を念願し、
人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚する

 

 

 しかし、まあ、推定すると尖閣諸島の海底油田をめぐって、ちょっとまたきな臭くなってきましたね。イラク並みの埋蔵量の海底油田があるようです。イラクサウジアラビアに次ぐ産油国です。

 ちょっと掘るの難しいようなんですが、あと50年以内くらいには採掘できるんじゃないかな。そしたら日本国民みんな左うちわですもんね。あまりにもでかい問題ですね。

 なんとか発展途上国などで飢餓と貧困が解消されるようにとか、科学技術などで支援していきたいですが、まだまだ物騒な世界情勢です。

 

 うちのホームページ読まれる方には「ルサンチマン」「スケープゴート」「権威主義的パーソナリティ」等調べるのお勧めしているのですが、戦争と障害者差別は必ずしも無関係ではありません。ナチスドイツのホロコーストでは、ユダヤ人以外にドイツ人の精神障害者なども犠牲になりました。

 人間の心理メカニズムは怖い事もあります。

 健康な人々にも「虚妄」はあるのです。

 

 

 恐らく彼女にとってのばねは、絵を描くことにあるのだろう、と相馬鼎は考えつづけた。必死になって過去と戦っているからこそ、萌木素子の絵には異様な迫力がある。しかしそれは危険な芸術なのだ。殆ど自分の精神を、自分の命を、それに賭けてしまって、あとには何も残らないような芸術なのだ。そういう芸術はどこかしら間違っている。芸術はそのうしろに人生への休息を、せめて人生への夢想を、少しでも残すべきものだ。精神をそっくり封じ込めてしまい、タブローの外には人生の滓しかないような作品は、作者を次第に殺して行くに違いない。自分で自分を殺して行きつつあるようなものだ。

(『死の島』福永武彦、新潮社、1971、より)

 

 

 なんでしたら、↓お読みください。

犬儒のHP〜本格派「当事者」雑誌

福永武彦論〜サナトリウム文学の遺産 by 犬儒

 

ベックリン「死の島」

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↓26位。極端に不適応の人は入院させられて「精神分裂病」とか診断名ついてたよ。

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