犬儒のブログ

当事者のアマチュア文芸雑誌の編集顧問を務めています。『ノルウェイの森』の直子と同病の単純型統合失調症です。

今日は元気がなくて書けませーん。自作の小説のエロいところ転載しまーす。お見合い駄目かも?

     八

 「ふれあい広場」が終った日に槇子から電話があった。
「今から会えないかしら?」
「もう夜遅いけど大丈夫?」
「お母さんには宴会があるとでも言っておくわ」
 実の所、お祭りが宴会みたいなものだということで、打ち上げもなかった。
「まあ、その言い訳通るね。たまに泊めたいけどそういうわけにも行かないか」
「そうね」槇子は言った。
「たまにほんとにお酒飲む?」
「なりゆきかしら。食べるのはもういいわ。あなたの部屋に行きたい」

 僕はワゴンRで彼女を迎えに行った。
「私のこと嫌いになったでしょ」助手席で槇子が尋ねた。
「ちょっと手伝ってほしかったかな」
「ごめんなさい。あなたに合わせる顔がなくて」
「なにも恥じるようなことじゃない」言ってみたが、なにか自分の声が冷たくなっているような気がした。
「せめてあなたの負担にならなければいいのだけど」
「不思議な病気だね」僕は言った。
「うん。一般的な精神病とは少しタイプが違うって浅井先生も他の先生も言ってたわ。ほんとは効く薬がないくらいらしいの」
「今は調子がいいし、もう治ったんじゃないかな」
「そうだとも思うんだけど、入院病棟のこととか思い出すと、ちょっと怯えてしまうようなそういうような気持があるの」
「『医原性のショック』っていう言葉はある。入院とか病名告知で無用な劣等感を持ったり、あるいは烙印を押されたような気持ちになっちゃうんだね。ハンディがさらなるハンディを招き、みたいなことで、本来的な問題は大きくないんだ」
「私もそうかしら」
「なっている可能性はあるね。でもあんまり気にしないことだと思うよ」
 アパートが近付いてきた。唐突かも知れなかったが、僕は言った。
「君の事を愛してる」少し声が冷たくなってしまった。
「私も」槇子が言った。「愛してる」
 アパートに着くと無言で階段を上がった。
 玄関で一度彼女を抱いた。
 靴を脱いでまた彼女を抱いた。軽くキスをした。
 寝室に行って彼女が服を脱ぎ始めたので僕も脱ぎ始めた。まだ明かりもつけていなかった。窓から街灯と月の明かりが僕らを照らした。
「避妊しないで」槇子は言った。
 僕は少し意味を取りかねた。「大丈夫なのかな」
「私たち、一度も愛し合っていないようなものかもしれないわ」
 僕は欲望で少し理性をなくした。槇子を暖めて頼むと僕を堅くして入れてくれた。彼女の中に入ると痛かった。実は僕はそういったことは初めての経験だった。
 彼女が濡れるまで動かないで抱きしめあっていた。彼女は少し冷たい声でささやいた。
 背中や肩を愛撫したりネッキングしたりしたが、彼女はなかなか濡れなかった。乾いたまま僕は果てた。
 彼女は両腕を少し広げて目を閉じて、心配するほどの間口を聞かなかった。彼女が口を閉ざしている間に僕は服を着た。
 彼女の肩をなでると彼女は目を開いた。詩的なスレンダーな彼女の裸体が少し起き上がった。両腕を僕の背中に投げて頬を寄せると彼女は「愛してくれてありがとう」と小声で言った。僕は彼女の背に腕を回した。位置を変えて、彼女の背中から乳房を抱いた。彼女の体は青いように堅かった。彼女は少し眠たげに首をたらした。十五分くらい僕は彼女を緩やかに揺らし続けた。

 僕は少し悩んだ。子供はまだ欲しくなかったが、体験したいことはあった。確かに少し理性をなくしていた。ただ、人工妊娠中絶のような事態は避けたかった。槇子が深く傷ついてしまうと思った。僕は彼女にプロポーズすることにした。昔、人の話で、「一応プロポーズしたがやっぱり断られた」というようなことが軽く口に出されたことがあったが、多分こういう状況だったのだろうと思った。次の土曜日、槇子に電話して彼女の家を訪問することにした。
 一応プロポーズする、じゃなくて、彼女がうべなえばそれで決まりだ。自分の人生がこういう風に進んでいくとは、ほんの少し前まで考えたこともなかった。
 彼女とあらためて会うと、沈黙がかなり支配した。
「付き合いたいんだけど、」あらためて僕は言った「お兄さんは大切な人だと思うし、また会えばいいよ」
「それは……。良くないと思うわ」
「君にとって大事な人だったら、僕は邪魔したくない」
「一番大切な人はあなただわ」槇子の目が少しうるんできたような気もした。
「一生付き合いたいというか、君の生活がゆとりのある生き甲斐のあるものにできるはずだと思うのだけど」
 槇子の瞳孔が僕の目線を捉えて動かなくなってきた。
「結婚してほしいんだ」
 槇子はうつむいてそれを拒絶はしなかった。心なしか瞬きしなくなったように感じられたが、茫漠と僕の瞳を捉えて固まってしまったように思われた。僕は言葉をなくした。何を言えばいいんだろう。
 槇子は正座していたが、膝を崩すわけでもなく、考え込むというよりは僕の目のさらに遠くの何かを見つめるような茫漠とした目線だった。僕は何か、美しいものを壊したくないような気持になり言葉を発することができなかった。
 彼女の憔悴したようでもある表情とまなざしは僕の心に陶酔をもたらした。何か言うべきなようにも思われたが、それよりなにかを待つべきのようにも思われた。
 どれくらい時間が経ったのだろう、僕も目線をそらさなかった。ゆうに二十分くらいの時は過ぎたように思われた。
 僕は手を差し伸べた。槇子が手を取ってくれたので抱き寄せて背中を二、三回叩いて勇気付けた。
 彼女はまだ何も言えない状態が続いていた。鏡台に向かって髪を梳かしはじめたので、少し心残りだったがその日はそれで僕は帰ることにした。

 槇子にプロポーズした次の日、電話があった。
「ごめんなさい。私また病気になっちゃったのかしら」
「いや、別に誰でもプロポーズされたら悩むよ。人生の重みがかかってるから。三十分くらい固まっちゃってたけど、すごく綺麗だった。僕が何か声をかけるべきだったのだけど、どうしたらいいか思いつかなくて」
「ごめんなさい。あなたが優しい目で見つめてくれたからぽおっとなっちゃって。……赤ちゃんはできないと思うから、そのことなら心配しないで大丈夫だと思うのだけど、なにか私を傷つけないようにプロポーズしてくれたんじゃないかしら」
 僕の気持はおおよそ槇子に見抜かれていたようだった。
「いやまあ、本気だ、というか、少なくともというか、今本気で君と付き合っている。一生一緒にいたいと思っている。ええと」
「返事は保留でいいかしら。何年かあとに結婚するのでもいい?」
「うん。それでもかまわない。今日うちに来ない? ちょっと夕方になってきちゃったけど」
「うん、行きたい。たまにお料理作ってあげようか」
「ああ、それはうれしいな。じゃあ、今から迎えに行くよ」
「うん。待ってる。お母さんには伝言しておくわ」
 僕は何か緊張型統合失調症というのも普通の心理で捉えられるような気持になってきた。昨日の槇子は美しいとしか言いようがなかった。だいたい、五千人いるビルが崩壊したら驚いて当たり前だ。他の人の感覚の方が鈍くなってる。『タイタニック』の映画じゃないんだけど、なにか他の人の方が現実と虚構を混同しているんじゃないだろうか。槇子の二十歳のときのエピソードは別におかしなことではないと思った。 

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↓40位。精神科入院したら評判落ちるから、障害認定して所得補償するしかないかも。

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