犬儒のブログ

当事者のアマチュア文芸雑誌の編集顧問を務めています。『ノルウェイの森』の直子と同病の単純型統合失調症です。

元気ない。天命も尽きてきたかー? 自作の小説転載します。クララちゃんと愛しあったの。(?)

犬儒のHP〜本格派「当事者」雑誌

『暁』

 

     四

 けだるい夏の昼下がりだ。
 僕は部屋でCOMETシミュレーターのグラフィックデザインを考えている。資格受験生の為に商品化できるくらいのレベルになってくる。札幌あたりのソフトハウスと、雇用契約ではなくても、売買契約くらいできるのではないだろうかと考える。
 郷里を離れるのは生活力の無さからして難しいともう考えざるを得ない。田舎育ちというのは都会生活ではハンディのようだ。
 電話が鳴る。
「もしもし、三枝さんのお宅ですか?」
すこしギクシャクした子供じみたトーンでもある。
「そうですが」
「繁人(しげと)さんいらっしゃいますか?」
「僕ですが」
「あ、わたしです。有村茜」
 市内に三枝は一軒しかないと言っておいたので、電話帳で調べて電話してきたようだ。
「ああ、茜ちゃんか。懐かしいな。迷惑かと思って電話番号訊かなかったんだけど、どうした?」
「退院したのだけど、なにか寂しくなってしまって」
「そうか。おめでとう。ええと、なんかまともなデートでもするかい」
「嫌。いえ、嫌じゃないけど、わたしっていったい何なのかなあ、って思って」
「僕の方が正体不明だと思うけどね」
「三枝さん、わたしたち付き合ってないよね」
「歳が合わないかい。十歳くらいなら誤差だけどね」
「誤差って何?」
「ええと、男は女性を守らなければならないんだ。意味不明かな」
「嫌いだった?」
「そんなことはない」
「ありがとう。……今家で一人で寂しいので来てくれないかしら」
「いいよ。北部団地だっけ」
 僕は茜から詳しい住所を訊くと、農作業用の軽トラックで出かける。ジーンズで、デニムのシャツのポケットに財布と煙草だけ入れる。少しコロンを付けていく。
 北部団地は平屋の数棟集まったものだった。茜の住居はすぐわかる。彼女の家は母子家庭のようだった。
 少しどぎまぎしてチャイムを鳴らす。
 しばらくして茜が少しドアを開けて続いて大きく開ける。
「いらっしゃい」
「お邪魔します」
「わたし、……なっちゃった」茜は微妙に静かな風な白い顔をしている。少し頬に赤みがさしたような気がする。
「え?」
「いえ、あがって」
「うん」
「懐かしいわ」
 狭い普請の市営住宅の造りだ。
「そうだね。僕も何か懐かしい」
 内装は女性的で生活臭があるような。
「抱いて」
 僕は頼みにしたがって彼女を抱きしめる。彼女の体は柔らかだ。
「キスして」
 彼女にキスする。唇にキスして瞼にキスして首筋にキスして耳たぶにキスしてもう一度唇にキスする。
 彼女の体はたおやかに柔らかい。彼女の髪をなぜる。
「こうなりたかった」
「わたしも」
「うん」僕はとめどもない安らぎに包まれる。
「すごく寂しかった」
「ちょっとぷっつーんとなっちゃった」
「わたしも嫌なこと忘れちゃった。もう一回キスして」
 僕は今度はフレンチキスをする。彼女は強く僕の舌を吸う。
「もういい。……あんた」と彼女は言う。おやおや。「私に酷いことしたでしょう」
「あ、覚えていたか」
「なんか純真なの踏みにじられたような気がしたわ。場所を考えなさいよ」
「ごめん。なんて謝ったらいいのか。悪かった」
「今日、A市のテレフォンクラブに電話して男と話してたの」
「へえ」あんまり穏やかではない。
「あんた、もうちょっと居る? コーヒーでもあげようか」
「ああ、ありがとう」
 ダイニングは狭い家の中でも一通りの落着きがあるようなテーブルの配置などだった。インスタントコーヒーの粉などを瓶から注いで水を注いで冷蔵庫の氷を入れてくれた。
「アイスが好きなんでしょ」
「うん」
「男、一時間で来るって言ってたんだけど、大嘘。もう二時間も経ったわ。あんたもしょうもないけど、ほんとに来るから偉いわ。餓えてるの?」
 とんでもないあばずれを引っ掛けてしまったか。
「いやまあ、茜ちゃんのためなら一肌でも二肌でも脱ぐよ」
「やっぱり餓えてるのね。そういえば、まともなデートするんだっけ?」
「そうだね。なんか食いにでもいくかい?」
「うん、弥果(いやはて)市においしい店があるの。連れてってくれない?」
「まあ、暇だからいいよ」
 茜は少し準備して部屋を出る。
「いい車持ってるじゃない」
 農作業用の軽トラックだ。
「東京でばたばたしていたら車買うチャンス逃した。うちの車なんだ。直角カーブをサードで曲がれる」どうでもいいことを自慢する。
「うん。いい車だわ。車持っている友達が少ないの」
 リベラルに車を評価されることはかなり嬉しい。
「まあ、行こう。ラジオも詰まんないから風の音でも聴いてよう」
 出発する。
 それにしても、とんでもないあばずれだったか。でもいいところもある。
 車は大通りに出る。四十km/h制限が終るとぎゅっと加速をかけて五速にする。
「ほんとはカーステレオでブルース・スプリングスティーンでも聴きたいんだけど。……スプリングスティーン知らないか」
「知らない。それにしても、ラジオも詰まんないわよね」
「まあ、詰まんないだろうね」
 ちょっとの間だったが、追い越しで九十km/hくらい出す。
「こういうの『速い車にのっけられて』っていうかな」
「どっかで聴いたことある。ねえ」
「何?」
 茜は小声になる。
「食事はほんとはいいの。モーテルいかない?」
 小声で妙にしおらしい。僕は初めての体験に強烈に嬉しくなって欲情する。茜の態度はまたいたいけな少女のようになっている。地獄に仏のような気分になる。
「近くにあったと思う。ちょっと行ってみる」

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↓49位。崖っぷちでやばいです。5,000,000組にひと組のカップルってある?

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